私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。
私たちはある日、長さ4キロメートルの砂浜を頭の中で美術館にしてしまいました。そうです、建物をたてるのではく、砂浜そのものを美術館として・・・。すると、今まで当たり前として何気なく見過ごしてきた一つひとつが、新鮮なものとして次々と浮かびあがり、それはまるで大切な何かを伝えている「作品」のように思えてきたのです。
例えば、沖を泳ぐ館長である私「ニタリクジラ」、潮風を受ける美しい「松原」、砂浜に沿って広がる「らっきょうの花畑」、あるいは浜辺に流れ着く「漂流物」、波と風がデザインする砂模様「砂紋」・・・。天井は真っ青な空、澄んだ空気の壁には、美しい海や松原や緑の山々が描かれている。そんな豊かな自然とともにある砂浜美術館の作品群は、季節の移り変わりや時間の流れとともに、いつも違った表情を私たちに見せてくれます。
砂浜美術館の作品は、自然の事象だけではありません。砂浜美術館の考え方で町を見てみれば、自然と上手につきあいながら暮らす人びとの日々の営み、古くから地域に伝わる先人たちの生活の知恵、そして、そこから生まれるモノもまた、かけがえのない「作品」たちです。
海水から風と太陽の力だけでお塩をつくる工房があります。お米と麦から昔ながらの製法で米飴をつくるお年寄りがいます。自然や地域の文脈と真摯に向き合う立振舞いには学びが多く、手間暇をかけた丁寧な手仕事の数々は、人にも自然にもやさしい「作品」そのものです。
町の“ありのままの風景”そのものを美術館と考え、そこにある豊かな自然と、そこに暮らす人びとの営みを、訪れた人びとが自分自身で、見方をかえたり、想像力を働かせたりしながら、一つひとつ大切な「作品」として楽しむ砂浜美術館。ぜひ一度訪れていただき、ゆったりとした時間の中で「作品」を感じながら、「今、私たちにとって大切なことは何か」を考えるきっかけになればと願っています。