砂浜でそれぞれの楽しみ方を見つけた2人に、その魅力を語ってもらいました。
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武政登(以下、武):昭和30年 黒潮町生まれ。元黒潮町役場職員。大方あかつき館館長。世界でも活躍する砂像作家。
塩崎草太(以下、塩):昭和59年 兵庫県生まれ。地域おこし協力隊で5年前に黒潮町へ移住。その後砂美スタッフ。昨年「砂美定点」を担当。
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「カンガエル時間」がたくさんある
武)今はコロナ禍でいろいろできんけど、できるようになった時には、「あれやろう、これやろう」と日記をつけよって。カンガエル時間も、カンガエルための素材も、たくさん「ある」でね。
塩)兵庫から移住してきた時、地元の人に「こんななんもないところにきて、なにするの」とよく言われました。でも「なくはないだろう」とはじめから思っていて。
武)それは「なんもないところ」ではなしに、塩崎は「興味があった」がよ。興味があったらいろんなものを見つけるけん、自然と。そこにいろんな表現ができる。
塩)考えることって楽しいですか。
武)好きやね。考えることって自由やし。
塩)そうですね。枠がないし、無限。そんなことできないだろうと思うことも、あまり制限せずに考えることが面白い。
武)そんなもんやろうね。最初に月にいきたいと考えた人がいるわけやし。棒高跳びでも、飛行機でも行けんけど、ロケット開発して月に行ったがやけん。
「砂浜の楽しみ方」 砂美定点×砂像
塩)昨年、「砂美定点」という企画で、1年間毎日同じ場所から砂浜を撮影しました。見える風景も、表現する言葉も毎日違っていて、普段の砂浜も作品であることを実感しました。そして、それをどう表現するか考えるのも楽しかった。
武)その企画の中で6月にクジラの砂像つくったやいか。あの時の風がよかったでね。
塩)雲の流れもダイナミックでしたね。
武)雲も作品になっていた。
塩)登さんは砂像で砂浜を思いっきり楽しんでいますよね。砂像は完成作品だけみるときれい。だけど、できるまでの工程を体験すると、あの繊細さからは想像できない大胆さがある。Tシャツアート展もそうだけど、砂浜での作品づくりは大胆さと繊細さが必要ですね。
武)砂浜がそこにあるけんいろいろ考えられるがよ。僕の砂遊びの原点はトンネルを掘って手と手がつながったとき、別の人の手に触れたようなあの感触。これでもかというトンネルをつくりたい。ここの砂は難しいけど、やりがいあるでね。
塩)はじめは、ただの砂浜ではないことを人に伝えられなかったけど、今は、あそこにいけば何かがあることを、伝えられるようになってきたと思います。
それぞれの「カンガエルバ」
(10数年前に、砂浜は「かけがえのない遊び場」と話していましたが覚えていますか。)
武)覚えていないけどそうやろね。砂浜のどこで遊ぶか、機能的に知っちょうけん。地下水位の高さで砂浜での自分の遊ぶ場所が決まってくるがよ。
塩)それ面白いですね。登さんが砂像を作る場所を決めるのを見て、「なんでそこなんだろう。もっと見栄えのいい場所はあるのに」と思っていたけど、地下水の話をされると、「なるほどな」っと。
※砂像の制作にはすぐ近くに水が出る場所が必要
武)僕はあの場所で地下を見るよね。
塩)登さんは見えない地下を見ている。砂浜は横に長い(長さ4km)だけでなく、実は深さもあるんだなということに気づきました。僕は目に見えるものしか見ていないけど、今回「砂美定点」の企画を通して、砂浜で見えてくるものがたくさんありました。
武)見えてきたものを、人に魅せる努力をするがよ、美術館だから。
(ひとそれぞれ、そういう「バ」があるというのは豊かなことですね。)
武)そうよ、あそこ(砂浜)にも、ここ(自分の中)にもバはあるがやけん、砂浜から離れた家の中でも考えることができるでね。
塩)「バ」って地点のことだけではないんですね。
武)そう、「バ」は、考える機会なのかもしれんね。
【『HIRAHIRA TIMES 2021』(非売品)より】