全国に当たり前にある粗大ごみの日が、【粗大ごみの日は町中がフリーマーケットになる】みたいな価値感が社会で共有されたら世界が変わるような気がしないだろうか。粗大ごみの日は一般的に「回収する日」とされているが、出されたゴミの中には修理すればまだ使えるものもあるかもしれない。ある人にとってはゴミだとしても、違う誰かにとってはまだ使えるモノかもしれない。回収の日を2日前倒し、後日回収車がやって来るから、それまでに欲しいものがあれば持って帰っていいよ。というようなルール作りができれば、価値がないと思われていたゴミも誰かの価値になるかもしれない。
砂浜が「美術館」であるように、流れ着くゴミが「作品」であるように、当たり前にある社会システムの見かたを変えることで、世界は変わるかもしれない。
このアイデアは、2023年のTシャツアート展審査員の太刀川英輔氏がネット上のインタビューで話していたことが始まりである。「すなびの考え方と一緒じゃん!」ということで俄然興味が沸いてしまった。ちなみに、黒潮町から出るの粗大ごみの量は全体の5%程度で、これだけでは世界は変わらない。しかしながら、粗大ごみの日は全国にあるので、黒潮町で小さな事例を作って、全国の町が真似できるような仕組みづくりが目的であり、冒頭に書いた【価値感が社会で共有される】ことが大切だと考えている。
ここで気になることは、「多様性」という言葉が多く使われる昨今、一昔前に比べて多様な価値観や生き方が広がる現代に、このような価値観の共有は容易くできるのだろうかということだ。
※多様性(たようせい、英: diversity)とは、ある集団の中に異なる特徴・特性を持つ人がともに存在すること。ダイバーシティという概念は1960年代のアメリカで生まれ、1980年代に日本でも認識され始めた。
ダイバーシティ、ジェンダー、デジタルトランスフォーメーション、SDGs……横文字が増え、社会の動きもより早くなり、大きく変化しているのは間違いないだろう。しかし現代だけが大きく変化しているように思いがちだが、スピード感は違えどいつの時代もそうだったはず。地球には46億年の歴史があり、日本が大陸から分離したのは約1万年前、鎌倉時代から戦国時代までの中世、近世の日本を経て江戸時代にペリー来航以来、明治、大正、昭和……社会を振り返る時、歴史的に見れば社会はいつも大きく変化し続けている。生物の進化を解明したチャールズ・ダーウィンはこう言っている。「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」では人間社会は変化できるのだろうか?人間社会の課題という点で言うと、毎年1月末に開催される世界経済フォーラム、ダボス会議では、今後10年間の長期リスクの上位4つに次のものが挙げられている。
①異常気象
②地球システムの危機的変化(気候の転換点)
③生物多様性の喪失と生態系の崩壊
④天然資源不足
ここぞとばかりに環境関連ばかり。我々人間社会は持続可能なのか? このままではダメなのだろう。そうでなければSDGsのカラフルなデザインがポスターとなり、バッジとして身の回りにこんなに出回らないはず。このままいけば地球史上6度目の大量絶滅期が訪れる可能性があるということだ。こんなことを書くのにはワケがある。先日砂浜美術館の話を聞きに来てくれた人にこんなことを言われた。「TシャツをひらひらさせているだけではCO2は減らないのではないか。」う〜〜〜ん。砂浜美術館の永遠のテーマは「人と自然のつきあい方」である。建物がない美術館でTシャツをひらひらさせることで、砂浜から地球のことを考え、より多くの人にこのメッセージを伝えるためにTシャツアート展を続けてきた。そしてこれからも続けるだろう。【粗大ごみの日は町じゅうがフリーマーケット】というプロジェクトはゴミを減らすだけでなく、社会全体で『いいね!』と思える価値観を共有することが重要だと考えている。大都市ではたとえ小さくとも、我慢を伴うような「変化」は起こしにくいだろう。しかし先日人口1万人を切った黒潮町のような小さな町は、1万人弱に伝わればひとまず町単位の社会で共感を得たことにはなる。多様な価値観が多い現代において、大都市に比べるとスモールスタートしやすく、小さな町の事例は社会課題解決の糸口になるポテンシャルがあるはずだ。自由に飛び回りたいという理由で飛行機を発明したライト兄弟。「世界をポケットに入れた男」スティーブ・ジョブズ。みな社会の価値観を変えてきた偉人たちである。しかし当初は変人扱いされていた。バブル絶頂期に砂浜を美術館に見立て、Tシャツをひらひらさせ始めた男たちもこう揶揄されていたそうだ。「いい大人が砂浜で遊んでいる。」30数年後、その男たちはジブンの町の町長、教育長となった。見かたを変え、遊び心と探求心を持つことで、世界は変わるかもしれない。