まきのさん
2023年4月から放送された朝の連続テレビ小説「らんまん」は高知県出身の牧野富太郎博士がモデルである。なにかと注目される朝ドラということで、高知県がこれまでになく注目された一年になった。いつになく盛り上がる高知県であったわけだが、砂浜美術館では県内の企業の皆さまと共に「みんなでまきのさんプロジェクト」という企画に参加した。
企画趣旨は次のようなものである。【まきのさんは現代を生きる私たちに、あしもとの世界に目を向ける大切さと自然に学び・共存する姿勢を伝えている様に思います。(中略)本プロジェクトはそんな思いのもと、有志が知恵を出し合って草の根から展開していきます。アカデミックなだけではない、明るく人を引きつけるチャーミングな人柄に注目し、親しみと敬意を込めて「みんなでまきのさん」と表現しました。】
砂浜美術館と牧野博士。一見すると何の繋がりなのか分かりにくさもあったかもしれないが、砂浜美術館としては次のようなコラボを展開した。【建物を建てない自然のままを美術館と見立て35年続く砂浜美術館。自然から学ぶもの同士、潮風にTシャツをひらひらさせる「Tシャツアート展」とのコラボレーションでまきのさんを応援します。】
このようにオーガニックコットンTシャツが並ぶTシャツアート展で、2023年はまきのさんのTシャツもひらひらしたのである。デザインのかわいさもあり、たくさんの方が興味を示してくれた。本企画で私たちが大切にしたことは「あしもとの世界に目を向ける」である。砂浜美術館を語る上で欠かせない長さ4キロの美しい砂浜は、昔「砂浜しかない」と言われていた砂浜を美術館に見立て、何気ないいつもの場所、あしもとの世界から始まっている。
「雑草という草はない」
これは牧野博士の有名な言葉である。牧野博士の場合はあしもとの対象が植物であったわけだが、彼はこんな言葉も残している。「私は天性植物が好きだったのが何より幸福で、この好きが一生私を植物研究の舞台に登場させて躍らせた。」好きなもの、興味が湧いたもの、それを突き詰めた先には価値がともなう。
そういえばこの年のTシャツアート展の審査員太刀川英輔さんがあるインタビューでこんなことを言っていた。「やりすぎた先にだけ、価値がある」好きだなと思えることがあったときに、平均的なところから大きくはみだして、やりすぎてみることが大切ということだ。
また、お越しいただいた際には審査員インタビューでこんな話をしてくれた。「歴史が生まれるって多分この景色(Tシャツアート展会場)みたいな感じなんですよ。誰かがはじめて、良いか悪いかわかんないけど、いいね!ってなったら35年続いちゃう。世界中に広がっちゃう。そんなこと最初からは狙えないんですよ。やってみないとわかんない。けど、やったらそうなるかもねっていうものにちゃんと“張る!”っていうのが大事だと思う。今までのやり方にとらわれずに。」
建物がない美術館。こんなことは常識的ではないかもしれないが、そこにモノの見方を変える、視点の転換をしてみるという作業と、理論的に伝えるコンセプトがあったからこそ多くの共感が生まれ続いてきた。
まきのさんもみんなが見過ごしているあしもとの植物に興味を持ち、やりすぎたことで「日本の植物学の父」となった。(砂浜が美術館で、建物はありませんと言い続けてきたこともこれに相当するかな??)
少し話が逸れてしまったが、価値がないと思われていた砂浜に「意義」と「主体性」を持たせることで、長さ4キロの美しい砂浜は黒潮町のアイデンティティの一つとなった。
土佐湾に暮らすクジラも砂浜美術館の館長に逢いに行くツアーとなり、砂浜に流れ着くゴミ(漂流物)は一本のメッセージボトルがきっかけで科学的な目的だけではない、言語や文化、距離の境界を超えたコミュニケーションを創出した。※Ocean Bottle Project参照
一見パロディのようだが、ユーモアを交えた表現は人を惹きつける力があると感じる。
みんな“が”まきのさん
私たちはこれからも「今、地球にとって大切なことを伝えていく作品」を創り、砂浜美術館から発信していきたい。そのためにはいろんな人に出会いながら、新しい考え方・感性が必要となる。
最後になるが、今年のTシャツアート展会場でこんな光景が見られた。まきのさんのTシャツがひらひらする会場で【みんながまきのさん】となった。このように一つのプロジェクトを通じて多くの人の感性に出会えることが砂浜美術館の魅力の一つでもある。
【『HIRAHIRA TIMES 2024』(非売品)より】
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塩崎 草太(しおざき そうた)
兵庫県生まれ。地域おこし協力隊で5年前に黒潮町へ移住。その後砂美スタッフ。
砂浜美術館観光部でTシャツアート展などのイベント(シーサイドギャラリー)を担当。