砂浜美術館のTシャツアート展を、初めて見た時の鮮烈な印象は、今でも忘れない。駐車場から歩いて松原を抜け、ちょっとした土手を超えた瞬間、まるで別世界が目の前に現れたんだ。
そこには、Tシャツや現代アートを見慣れた僕でさえ、とても想像ができなかった光景があった。Tシャツがはためく美しい写真の数々は見ていたけれど、はるかにスケールが違うんだ。何より、不思議な「ひらひらの動き」にびっくりした。潮風が、まるで「私の力を見て」って自慢しているようだった。数えきれないほどのTシャツを、一斉にひらひらさせていたんだ。
一瞬、言葉を失って、その場に立ちつくす僕。
ところが、子供たちは、迷わずTシャツに向かって走り出す。自分が描いたTシャツを探しに行ったのだ。砂浜に足を取られて、よろめきながら、転びながら、子供たちは、自分の作品を見つけだした。自分が描いた絵と、Tシャツにプリントされたのと初対面。砂浜にひらひらしていると、ちょっと嬉しい。ちょっぴり恥ずかしい。
ここに来た人は、みんなきっと写すんだろうな。自分が描いたTシャツ作品と、作家=私とのツーショット写真。その後は、家族で仲良くもう一枚。シャッターをお願いした人も、思わずニコニコしてる。
そう、ここに来ている人は、みんな笑顔だ。
青空の下、砂浜で裸足になるだけだって気持ちいいのに、ほら、こんなにたくさんのひらひらが、やさしく心をくすぐってくれるんだ。一枚一枚の絵をみてごらん。みんな違って、みんな素敵。特に子供たちの絵がすごいよ。迷いなんかなくて、自由気ままな筆さばき。楽しんで描いているから笑っちゃう。目の前の砂浜や大海原にぴったりだ。見ている人も、散歩している人も、写真を撮っている人も、写真に撮られている人も、みんな笑顔。だから、つられて笑っちゃう。しばらく笑顔を忘れていた人だってね。
きっと、ここにいると。何が一番大切か、思い出すんだね。
やっぱり、自然の中にいるって気持ちいい。潮風に吹かれて、海やTシャツをぼーっと眺めて、それだけで幸せ。となりに家族がいると、大切な人たちがいると、もっと幸せ。
下手でもいいから、自分で、何かを表現するって面白い。誰かに見てもらえるって楽しい。ここに出品している人と、みんなつながっている気分になれて幸せ。
やがて、潮風と共に自宅に届くんだ。砂浜でひらひらした僕のTシャツ、家族のTシャツが。どんなTシャツよりも大切な宝物だよね。だって、その時しか描けないTシャツだから。僕が生きてた証なんだ。
この楽しさは、作品を応募しないとわからない。砂浜に足を運ばなきゃわからない。ひらひらの前で、にこにこしなきゃわからない。そこで笑顔を浮かべた人ならわかるはず。砂浜美術館のTシャツアート展が、日本で、いや世界で一番美しく楽しいTシャツイベントだって!
だから、きっとこれからも、ずっとずっと続いていく。そして、日本のどこかに、世界のどこかにも広がっていく。そうして、風とTシャツと笑顔で、みんながつながっていくんだ!
【『砂浜美術館ノートⅡ』より】
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国産Tシャツメーカー久米繊維工業三代目。砂浜美術館Tシャツアート展を「日本で一番美しいTシャツイベント」として公私共に応援して、講演やインターネットで全国に広めている。社)墨田区観光協会理事。特)CANPANセンター理事。明治大学商学部講師。「すぐやる技術」「ビジネスメール道」著書。
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