そもそもの話
私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。
ものの見方を変えると、いろいろな発想がわいてくる。
4kmの砂浜を頭の中で「美術館」にすることで、新しい創造力がわいてくる。
時代を少し動かせるのは、一人一人の小さな感性の集まり。
砂浜が美術館だとすると
「美しい松原」が作品です。
沖に見える「くじら」が作品です。
卵を産みにくる「海亀」が作品です。
砂浜をはだしで走り、貝殻を探す「子どもたち」が作品です。
流れ着く「漂流物」が作品です。
波と風が砂浜にデザインする「模様」が作品です。
砂浜に残った「小鳥の足あと」が作品です。
作品は24時間365日展示され、時の流れるままに変化します。
BGMは波の音、夜の照明は月の光…
以前はたまにこんな電話が事務所にかかってきました。
「今、砂浜にいるのですが砂浜美術館はどこですか」。
その答えは「そこです」。
Tシャツアート展のような企画展を開催している時だけが美術館ではなくて、普段当たり前に見ている風景の中に作品があるから。
でも、その常設作品を実は私たちもあまり深く知らないことに気がついたのです。気がつき始めたきっかけの1つは、作品が徐々に変化していることを感じたからでした。
「最近、松枯れが目立ってきたな」
「Tシャツアート展を開催するたびに、砂浜が狭くなっていくのを感じる」
「クジラ館長に出逢える場所が陸から遠くなった」 などなど。

作品を深く知ることは、楽しいことであり、同時にその作品がこれから先も変わらずそこにあるために、何をしたらいいかを考えることでもあります。大きな美術館には「コンサバター」と呼ばれる仕事をしている人がいるそうです。文化財や芸術作品を専門的に保存・修復する「保存修復士」。作品の状態を維持・管理し、後世へ伝えていく役割で、作品の点検、汚れの除去、適切な展示方法の検討、修復作業などを行うとのこと。ならば、砂浜美術館にもコンサバターのような役割をもった仕事が必要なのでは!? 作品はスケールが大きく、人工物でないので人間の力ではどうにもならないこともあるのですが、そんな意識ももって「作品」を見ると、いろいろな発見があるかもしれません。そのきっかけづくりが「砂浜美術館アカデミー」です。
アカデミー①
砂浜美術館の一大作品「砂浜(入野の浜)」と「美しい松原(入野松原)」
Tシャツアート展の会場となる入野の浜は、潮風のキルト展(11月中旬開催)の会場となる入野松原にとって重要な役割をもっています。川は陸から砂を運び、沿岸に砂浜をつくります。全国的に自然海岸が減少している中で、入野の浜は貴重な財産です。海岸線には多様な植物群落がみられます。そして、砂丘には海浜植物が生え、その背後にはクロマツの林が広がり、さらに常緑樹林へと環境に応じて植物の種類や高さも変化していきます。砂丘というと広大な砂の山を思い浮かべますが、砂丘は普通の砂浜にもあります。前浜と後浜があって、その後ろに飛砂がたまって盛り上がっているところが砂丘です。砂浜の研究をしている清野聡子氏によると、砂丘の大きさよりも、その連続性が重要とのこと。それが、入野の浜と入野松原にはあります。
海岸の植物は極めて過酷な環境に生育しています。夏には表面温度が50℃を超えることもある砂浜は、常に乾燥し強い潮風にさらされます。砂浜をはうように生きるハマゴウやハマヒルガオなどの植物は、葉や茎を厚くし表面に光沢をもたせたり、毛を生やしたりすることで塩分の侵入や水不足を防ぎ、根を地中深くまで伸ばして強風で飛ばされないように必死で耐えています。これらの植物が根を張ることで砂丘が安定し、背後のクロマツ林の育成を助けているのです。意外なことと思われるかもしれませんが、地形が砂浜から松原へと自然のまま徐々に移行する空間は全国的にも少ないそうです。
Tシャツがひらひらする「砂浜」、キルトがゆらゆらする「松原」は、こんな関係性のもとに成り立っているのです。

ハマゴウ:海浜に生える落葉の低木。花は7~9月に咲く。枝は四角形で果実はさわやかな匂いがする。

ハマヒルガオ:海岸の砂浜に生える多年草。花は5~6月に咲く。葉の脈がはっきりと見え、砂の上を茎が伸びる。

入野の浜と入野松原
次号:すなびのカタチ:砂浜美術館アカデミー②
※2回に分けて砂浜美術館アカデミーについて紹介します。
