すなびのカタチ:砂浜美術館の『すなはま教室』

教えるってなんだろう?学ぶってなんだろう?
砂浜を教室に見立てると町全体で学びあう新しい教育の形が見えてきた!?

2022年第34回Tシャツアート展は久しぶりのGW開催となった。新型コロナウイルスの影響で昨年、一昨年は秋開催となっていたためである。11月のTシャツアート展もなかなか良かった。Tシャツがひらひらする風景は変わらないが、日の出は遅く、夕暮れの景色もいつもと違った。秋開催となったことで、少し違う景色に出会い、あらためてこの風景が年に一度やってくることに嬉しさを覚えたのは、私たちだけではなかったはずだ。

そして何より、この未曾有の事態に陥った世の中で、一度も中止せず開催を続けてきたことへの自信と、建物を立てなかった“ありのままの自然の美術館”の強さを感じずにはいられなかった。

さて、前回の第33回の開催後から「来年は5月に開催したいね。」という声を多くいただいており、やはりTシャツアート展は多くの方に初夏の風物詩として認識されていることを改めて感じた。実際に久々の5月開催を迎えると、なんとも言えない高揚感に包まれた。これは主催者しか味わえない特権ではないかと思っている。まず砂浜の形状が春と秋で全然違うことにも驚いた。

そして、今回の会場には新しい企画がひとつ試された。それが「すなはま教室」である。これがなかなか好評でSNSでも多数投稿される新たな風景となった。実際に足を運んでいただいた方も多く、会場内でもひときわ目立つ存在となっていた。なんとなく“映える”だろうと感じてはいたが、改めて写真を見返してみても、爽やかな青空に黒板のグリーンが映え、すてきな風景が完成した。

きっかけは、「美術館は学びの場でもあるから、教室があってもええんちゃう?」みたいなところからだ。

床板を敷き、実際に使われていた黒板と机とイスを置いた教室は、みんなの頭の中にある“教室”でリアリティーがあった。それが“すなはま”にあること自体がパロディで単純におもしろかった。

しかし、この教室のおもしろさは“みため”だけではなく、“なかみ”にもあった。5日間の会期中に全11コマの授業を開催したのである。授業内容は、いわゆる5教科に当てはまるような、野鳥の話(理科)、絵手紙体験、木工ワークショップ(図工)、絵本・紙芝居の読み聞かせ(国語)などに設定。そして大人も子どもも楽しめる時間割を作った。ここで注目してほしいことは、先生が地域でそれぞれの内容を趣味として極めている人たちにだということ。教室・授業・先生というと何か教えなければいけないといったイメージや、やったことないから難しい、といった答えも予想していたが、ほとんどの方が二つ返事でOK。なんならどんな風にしたら楽しいかを勝手に考えてくれたので、どの授業も大盛況。みんながTシャツアート展を楽しんでくれていることを感じるいい機会となった。

ちなみに、時間割の中で、役場の定例会として公の会議も実施されたところが黒潮町らしいひとコマだ。

このような一連の流れの「すなはま教室」をつくったのにはワケがある。ワケというよりは、やらなけばいけない課題といった方が正しいかもしれない。

「おまえらいつまでTシャツひらひらしてるんや!!」(Tシャツアート展をやめろと言う意味ではない)言葉の主は砂浜美術館の生みの親の梅原真さん。

砂浜美術館の設定は、“砂浜を美術館に見立てて、ものの見方を変える”というところが肝心なところなわけだが、ただそれは具現化(カタチに)しなければ一般的にはとてもわかりにくい。

この考え方を目に見えるカタチにしたものが、「Tシャツアート展」に代表される砂浜美術館のイベント「シーサイドギャラリー」である。

「砂浜美術館」と「シーサイドギャラリー」
(ちなみに「シーサイドギャラリー」は砂浜美術館の英訳ではない。砂浜美術館の英訳は現在“Sunabi Museum“となっている)

私たちにとって当たり前となっている、この2つは一般的には区別されていないかもしれない。しかし砂浜美術館立ち上げの際に、この2つが同じなのか、違うのか、繰り返し議論されたことをここで紹介しておく。

結論、前者は人生を豊かにする考え方で、後者はそれを目に見える形で表現するイベントである。

砂浜美術館の考え方を使ってものの見方を変えると言っても、この考え方を人に伝えるには何か目に見えるものが必要だと言うことだ。これまで、砂浜美術館で展開している「シーサイドギャラリー」はTシャツアート展、夏の花火大会、秋の潮風のキルト展、漂流物展の4本となっていた。

継続することはとても大切、そして大変なわけだが、新しい発想は生まれていなかった。梅原さんの指摘は、時代は進んでいるのに「いつまで~!!」というわけだ。

継続、コロナ、時代、という宿命に世間と同じように砂浜美術館もぶつかっていた。その状況が分かっているにもかかわらず、何もしない選択肢はなかった。(梅原さんにドヤされるのが嫌なのも本音である)

しかし、新規企画・イベントをそこで立ち上げる余裕はなかったので、より多くの方が訪れるTシャツアート展をターゲットに企画を考えてみた。

それが第34回Tシャツアート展に出現した「すなはま教室」というわけだ。

教室の使い方は人それぞれで、写真を撮ったり、学校ごっこをしたり、たくさんの方が楽しんでくれた。

ここでもう一つ興味深いひとコマを紹介したい。教室にたくさんの人が上がると当然床が砂まみれになってくる。会場スタッフがそれを掃くために一本のほうきを用意していたのだが、気づくと子どもが教室を掃き掃除していた。

たまたま教室にほうきがあったからなのか、教室の床はキレイにしなければいけないと思ったのか、砂浜にあるほうきが面白かったからなのか、真相はわからないが、その光景を目にするたびに、人間の深層心理にある“人と自然のつきあい方”を感じた。

こんな仕掛けを普段から砂浜で作ることができたら、大掛かりなビーチクリーンをたびたび実施することなく、みんなが気持ちよく砂浜で過ごすことができるのではないだろうか。

そういえば、定期的に黒板に書いていた砂浜美術館からのメッセージなども、いつも子どもが消していた。まじめな日直さんが砂浜にはたくさんいるもんだ。

【『HIRAHIRA TIMES 2023』(非売品)より】

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≪筆者≫
塩崎 草太(しおざき そうた)

兵庫県生まれ。地域おこし協力隊で5年前に黒潮町へ移住。その後砂美スタッフ。
砂浜美術館観光部でTシャツアート展などのイベント(シーサイドギャラリー)を担当。