150年後の国宝展 〜姿の変わる美術館の写真〜

2022年11月2日(水)~2023年1月29日(日)まで東京国立博物館で「150年後の国宝展」が開催。“150年後に伝えたい”あなたにとっての国宝候補を公募し、厳正な審査で選ばれた国宝候補たちがその背景や未来に残すべきストーリーと合わせて展示されている。そこに高知県立大方高等学校(黒潮町)の入野由妃さんが「砂浜美術館」をテーマに応募し、入選した。

姿が変わる美術館の写真

私たちの町には、建物のない美術館がある。その美術館は、時の流れと共に姿や形が変わる。唯一の砂浜美術館だ。だが、私たちの町には30年以内に80%の確率で南海トラフが来ると言われている。私たちは、その中で生きるために必死だ。姿や形は変わるが思うことは消えず残っていく。

大切なキーワードが並び、かつ自分の思いや考えが詰まった文章は、非常にメッセージ性の強いものとなっている。

入野さんは応募にあたり「国宝とはなんだろう?」と考えたときに入野の浜・砂浜美術館が頭に浮かんだそうだ。

応募した写真もお気に入りの写真で、心に残った一コマだったとコメントしている。

黒潮町では学校教育の中にも砂浜美術館の考え方や、それを通した防災教育が組み込まれている。

全国で最も高い津波想定34㍍を突きつけられた子どもたちに、自然豊かなふるさとの日常の魅力を見失わないように伝えたかったことが、このように表現されることは町の大人たちにとって、とても喜ばしいことではないだろうか。

34年前から砂浜美術館の魅力は、そのロケーションではなく、“ものの見方を変える”というところにあることを改めて感じることができた。

「写真が好きでたくさん撮っている」と入野さんは言っていたが、こちらの写真を選んだところもとても興味深い。

多くの人が砂浜美術館の写真で取り上げたくなるものは、晴天で青々とした海と空、もしくはTシャツアート展の風景だろう。

この写真はおそらく日が落ちる前の少し薄暗くなるころ。たくさん撮影しているからこそこのような場面に出会い、自分の思いと重ね合わせた時に、この写真で応募しようと思ったのではないかと想像する。

【『HIRAHIRA TIMES 2023』(非売品)より】

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≪筆者≫
塩崎 草太(しおざき そうた)

兵庫県生まれ。地域おこし協力隊で5年前に黒潮町へ移住。その後砂美スタッフ。
砂浜美術館観光部でTシャツアート展などのイベント(シーサイドギャラリー)を担当。

『すなびのカタチ』

「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。」

これは1989年から変わらない砂浜美術館のコンセプトです。

この考え方・コンセプトを目に見えるカタチで表現したイベントが、Tシャツアート展をはじめとするシーサイドギャラリーです。

しかしながら砂浜美術館は町おこしだけを目的としたイベント団体ではありません。

様々な活動を通して伝えたいことは『考え方』です。イベントはその手段のひとつです。

ここではイベントだけでは伝えきれない砂浜美術館の考え方や活動を、レポートやケーススタディとして、コラムというカタチで発信していきます。

『すなびのカタチ』ぜひお楽しみください。

第29回潮風のキルト展、プログラムのご紹介

第29回潮風のキルト展、プログラムのご紹介

人と自然のつき合い方を考える

第29回潮風のキルト展

日時 :2023年11月17日(金)~19日(日)10:00~15:00

場所 :砂浜美術館(高知県黒潮町・入野松原)【雨天】ふるさと総合センター

※協力金300円(中学生以上・協力金の一部は入野松原の保全に活用させていただきます)

主催 :特定非営利活動法人NPO砂浜美術館

協力 :パッチワークキルトサークルあずさ、自然工房、高知パッチワーク・キルターズ協会、土佐中村郵便局

後援 :高知新聞社、朝日新聞高知総局、毎日新聞高知支局、読売新聞高知支局、日本経済新聞社高知支局、
株式会社デイリースポーツ、産経新聞社、NHK高知放送局、RKC高知放送、KUTVテレビ高知、KSSさんさんテレビ、エフエム高知

Patch-Work-Lifeさん

審査員 :Patch-Work-Lifeさん

【プロフィール】
『あなたがパッチワークすれば、世界はもっと楽しくなる。』をテーマに、インテリアデザイナーとグラフィックデザイナーの目線で創りだすあたらしい「デザイン×パッチワーク」のカタチを発信しています。


29回目を迎える潮風のキルト展。今年も「布を楽しむ」をテーマに集まった、個性豊かなパッチワークキルトやクッションが砂浜沿いの松原にずらり…木漏れ日を浴びてキルトが潮風にゆらゆらとそよぐ風景は、秋の砂浜美術館の代表作品です。一針、一針想いのこもったキルトと自然とが織りなす風景や、野外展ならではのいろいろな表情を、秋の砂浜美術館でのんびりとお楽しみください。

・今年のフライヤーはこちらから。


プログラム

空を泳ぐパッチワークジラ

企画展

まんまくじら

by・社会福祉法人一条協会 わかふじ寮(四万十市)
  ・社会福祉法人土佐七郷会 生活介護事業所みなとがわ(黒潮町)
  ・しこくゲージュツ遍路座

わかふじ寮と生活介護事業所みなとがわでは、施設の壁を超えて、アートチーム しこくゲージュツ遍路座とともに作品を創りました。利用者それぞれが入野松原に訪れた感覚を、布を楽しみながらおもいおもいに描いたパーツを縫い合わせて、大きなクジラを模した「まんまくじら」ができました。お寺に掲げられる5色の幕・幔幕(まんまく)をベースにした作品(2021・わかふじ寮)と、今回新たに制作した作品が太平洋に向かって泳ぎだす姿をご覧ください。

松原のお店やさん

手づくりのぬくもりがうれしい小さな青空マーケット♪

松原のお店やさん

手づくりのぬくもりと、お客さんの笑顔があふれる小さな青空マーケット。黒潮町・幡多エリアのおいしいもの・かわいいものを見つけよう!

出店リストはこちらから。

日時 11月17日(金)~19日(日)10:00~15:00
松原の音楽会

今年も開催!

松原の音楽会

黒潮町立三浦小学校子どもお箏教室のみなさんと生田流箏曲菊由楽会による、箏の音楽会。松原に響く軽やかな“音作品”もお楽しみください。お箏の演奏体験もできますよ。

日時 11月18日(土)11:00~、13:00~ ※雨天はふるさと総合センターにて実施します。
野点・茶波茶葉(さわさわ)亭 野点・茶波茶葉(さわさわ)亭

自然の中でいただく豊かなひとときを

野点・茶波茶葉(さわさわ)亭

秋空の下、らっきょうの花畑を見ながらお茶を楽しみませんか?心地よい風を感じながら、おいしいお茶と和の空間でのんびり、ゆったりとお過ごしください。

日時 11月19日(日)10:00~14:00 ※雨天はふるさと総合センターにて実施します。
料金 300円(お茶・お菓子)
はがきサイズのキルト展

潮風のキルト展限定“松原ポスト”今年もあります!

はがきサイズのキルト展

いろいろな布やジーンズのはぎれを切ったり貼ったり。自分だけのオリジナルはがきを作ろう!松原ポストから投函されたはがきには、期間限定の風景印が押されます。

日時 11月19日(日)10:00~15:00
料金 1枚200円(切手代込み)
キルトとらっきょうの花見

砂浜美術館の秋の作品といえばこれ!

らっきょうの花見

色とりどりのキルトが並ぶ松原の前に広がるらっきょうの花畑。キルト作品とこの時期に咲く赤紫色のらっきょうの花は秋の砂浜美術館の一大作品です。遠くから風景を眺めたら、今度はぜひ近くから。一針、一針丁寧につくられたキルトの表情、花火のようなかわいらしいらっきょうの花に思わず顔がほころびます。

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第29回潮風のキルト展
場所:砂浜美術館(高知県黒潮町・入野松原)

すなびのカタチ:『イスに座って海を見る日』〜観光ってなんだろう?〜

みんなで海を見るだけのなんともないイベントです。

2021年から砂浜美術館では「イスに座って海を見る日」というイベントを開催している。

【海を見るのにステキなイスをもって砂浜美術館にお集まりください。どんなイスが集まるか?みんなで海を見るだけのなんともないイベントです。】

こんなコンセプトと呼びかけで開催した、一般的にはいわゆる“ユニーク”なイベントである。まだまだ知られていないイベントであり、これから続けるかもわからない未知数な「イスに座って海を見る日」。正直なところ、やると言ったもののどれくらいの人が来るのかという不安もあった。多くの人を呼べるわけでもなく、たくさんのお金が動くわけでもない。つまり“観光産業”という括りでは、予算をつけるのが難しい企画でもある。

しかしながら当初から数の論理で勝負するつもりはなく、負け惜しみに聞こえるかもしれないが、「海を見るだけのなんともないイベント」に共感する人がいることを信じて開催した。フタを開けてみると50組約100名の方が、イスを持って砂浜にやって来た。そして何もない砂浜を楽しんでいた。

ここで少し“観光”という言葉を考えてみたいと思う。この言葉が持つ意味は、【他の土地を観察すること。また、その風景などを見物すること。】

観光は楽しいものだ。もちろん。英語で“sightseeing”、響きも良い。

しかしながら、最近の世の中では少し意味合いが違っていないだろうか。

一般的に町の観光産業の指標を数字で表すことは習知の事実。どこに何人来て、どれだけお金が使われたか。これらが問われるのがいわゆる観光産業だ。

「本当の意味での観光ってなんだろう?」

『こうやって座って海を見ているだけで最高の観光だと思うんですよ。』

これはひらひらフレンドシップとして「風にころがるTシャツ展」を茨城県大洗町で開催する主催者栗原氏の言葉である。2019年から今年で4回目を迎え、5月末の「風にころがるTシャツ展4」開催時に、会場で砂浜や岩場に座って海を見ている人が目につき栗原氏と話していた時のことである。この一言を聞いた時、これが砂浜美術館と「イスに座って海を見る日」の意義のひとつではないかと感じた。

砂浜や岩場で海を眺めている人の数はカウントされているはずもなく、もちろんお金もその場ではほとんど動いていない。(町単位で見ればそこ以外の場所でカウントされているかもしれないが)しかしながら、好きでそこに座って海を見ている人は、【他の土地を観察すること。また、その風景などを見物すること。】この意味を間違いなく楽しんでいる。砂浜美術館の永遠のテーマ“人と自然のつきあい方”はその言葉だけ読むと、環境問題へのメッセージと受け取られがちだが、それだけではない。観光においても、もちろん活かすことができる。

砂浜美術館のコンセプトの一文にこんなフレーズがある。【大切なのは、ここに住み、ここが好きだと言えること。】私見ではあるが、これはどんなキャッチフレーズより強いメッセージではないかと思う。その土地に寄り添い、文化を理解した上で楽しむ。そしてその輪が広がることによって、本当の意味での観光というものが実現されるのではないだろうか。

栗原氏は『イスの企画もとてもいいなと思った。』と言ってくれた。Tシャツアート展を通じてできた栗原氏との関係だが、イスの企画でも同じように共感できたことは、考え方を伝えるイベント「シーサイドギャラリー」にしっかりと砂浜美術館の考え方を乗せることが出来たからだと思う。これはシーサイドギャラリーを運営する私たちにとってこれ以上ない嬉しい出来事のひとつである。

「町長室はコチラです。」

これらのことを踏まえた上で、砂浜美術館の取り組みというのは、町づくりにも直結していると私たちは考えている。2022年に「イスに座って海を見る日②」を開催し、特別企画として「町長室はコチラです。」という現職の町長が砂浜で公務するという企画を実施した。ことの始まりは1年前に町長のイスを砂浜に持ってきてみようという遊び心からである。前年は実現しなかった企画だったが、今年もチャレンジしてみようということになり、ついには町長室を作るまでの企画となった。手法は別でも掲載している「すなはま教室」と同じやり方である。こちらの企画も町長室がそこにあること、そして実際に町長が公務しているところが面白いわけだが、なぜそんなことをするのか。そんな疑問は普通に考えたら出てくるのではないだろうか。そのワケは「こんなことができる町って良くない?」これだけ。バカバカしくて、普通に考えたら不可能かもしれないことが、意外と面白かったりするのではないかと私たちは考えている。誤解のないように説明しておくと、面白さだけを求めている訳ではない。町にはもちろんシビアな課題もある。今地方が抱える課題は、当事者だけで解決できないものもたくさんあるように思う。そこで課題解決に必要になってくるものが、人とお金、そして知恵。

その町にはどんなが魅力があり、そしてどんな意志を持って何に取り組んでいるか。そこが見えることによって、人もお金も集まってくるだろう。意志がなければ人もお金も集まらない。もちろんこれは砂浜美術館にとっても同じことが言える。

「こんなことができる町って良くない?」この言葉を砂浜美術館として表現するにあたり大切にしたことは「建物はないが考え方がある」というところである。

現役の町長が砂浜で公務するなんてバカげた話かもしれないが、そんなことができる町は他にはないのでは?(あるかもしれなけど)やってみよう。というかイメージができてしまったので、あとはカタチにしていくだけだった。もちろんやったことのない難しさもあったが、そこはもうこんな感じで進むだけ。

『やってみなはれ。やらなわからしまへんで。』

これはサントリーグループ創業者・鳥井信治郎(1879~1962年)の言葉。

昔、砂浜美術館立ち上げの際も当時の町長が同じようなことを言ったことは少し有名な話。(砂浜美術館ノートⅠその日~そもそものきっかけ・39日間の物語

そして、今回この企画に賛同し、協力してくれた松本町長こそが、34年前の砂浜美術館立ち上げの中心メンバーであり、当時の坂本町長に「何もしなければ、何も変わらん。失敗してもいいから、とにかくやってみろ」と言われた本人である。今回このような企画に町長という立場でありながら、おもしろがってくれた松本町長には感謝しかない。

イスに座って海を見る日②では、町長室以外に砂浜にカフェも作った。今さらだが、建物のない美術館だったから、こうやって考えたことをカタチにできる。34年前に建物を作らないという手段を選んだ面々には本当に頭が上がらない。

昔、砂浜しかないと言われた町のマイナス要素を逆手に取り、価値あるものとして表現し、多くの人を魅了することこそが砂浜美術館の魅力のひとつである。一人一人聞いたことはないが、今働いている職員も同じようにそこに魅了されたはずだ。

私たちはまだまだ白いページばかりの説明書【砂浜の使い方】を持っているようなものだ。あとは松本町長がよく口にする「知恵こそは無限の資源なり」。私たちはこれからも砂浜で新しい作品を創り、届けたいと思う。

最後に、今回イスに座って海を見る日②に来場した方の中には、朝から夕方まで思い想いの過ごし方を楽しむ方がいた。

このイベントにはイスを持ってくるというひと手間があるわけだが、そのひと手間で普段できない砂浜でのひとときを獲得できることをお伝えしておこう。

【『HIRAHIRA TIMES 2023』(非売品)より】

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≪筆者≫
塩崎 草太(しおざき そうた)

兵庫県生まれ。地域おこし協力隊で5年前に黒潮町へ移住。その後砂美スタッフ。
砂浜美術館観光部でTシャツアート展などのイベント(シーサイドギャラリー)を担当。